新しい生活様式として定着したマスクや、生理用品などのサニタリー用品、さらには、紙おしぼりやウェットティッシュなど、日用品に使用されている「不織布」。花王のファインファイバーはそんな不織布の技術が進化した先で生まれました。その誕生の秘密を開発当時から紐解いていきます。
一本の糸を折り重ね、まるで皮膚のような被膜をつくるファインファイバー。花王がこの研究開発に着手しはじめたのは、今より10年ほど前のことです。きっかけは、ある程度成熟したと思われていた不織布業界の未来を、新しく切り拓いていきたいという想いでした。そして、不織布の研究を進める中で、極細繊維を生み出す「エレクトロスピニング」という技術に注目したのです。
実は、当時その技術に注目していた研究者はたくさんいたのですが、具体的にどのようなものに応用できるのか見当がつかず、ほとんどの人が研究をやめていきました。花王の研究者たちも同じように、何度もあきらめかけましたが、「この極細繊維は、絶対に何かに使える」という予感を捨てきることができなかったのです。そして、研究を進めるうちに、繊維が細くなればなるほど、そのやわらかさや感触、密着性といったさまざまな性能が桁違いに変わっていくことがわかってきました。それは、研究者たち自身に驚きや感動を与えるとともに、将来性をつよく感じさせたのです。
開発当初、ファインファイバーを使ってつくった試作品はシート状のものでしたが、極めて薄いため扱いが難しく、商品化は困難だといわれていました。しかし、可能性を感じていた研究者たちは、決してあきらめることはありませんでした。そうした中、ブレイクスルーとなったのは、「肌に直接吹きつけてみる」という発想です。そして、実際に肌に吹きつける技術を完成させたときには「やってみたい」と多くの技術者で人だかりができるほどでした。しかし、この時点ではこれが何に使えるのかは、まだ誰にもわかっていなかったのです。そんな中、商品開発研究所のスキンケア分野の担当者の目にとまったことで、商品化への道が拓けることになります。その担当者はこの技術に可能性をつよく感じ、自分でさわることでお客様へのベネフィットを見出したいという想いで、研究に取り組むことに。そして、粘度が高くて均一に広がりにくいペースト状の液体が、ファインファイバーを使うことで均一に広がっていくことを発見したのです。
スキンケア分野の担当者が特に注目したのが、極細になると液体を吸い上げる力がつよくなるというファインファイバーの性質です。実は、肌の上で均一に液体を広げることは、これまで物理的に難しいとされていました。しかしながら、その難題をいとも簡単に解決してしまうこの性質には、化粧品をはじめとする、スキンケア商品の「塗る」というこれまでのアプローチを変えていく可能性があるということで、一気に商品化が進んでいったのです。こうした花王の研究開発は、その将来を見据えながら10年、20年という長い期間の中で行われています。ファインファイバーも、さまざまな研究者たちが可能性を信じ、追求し続けたからこそ生まれました。こうして生み出されていくイノベーションは、仲間たちの手によって大きく育てられ、最後はお客様へ届けられます。まるでリレーのようにつながっていくこの研究スタイルこそ、花王らしいイノベーションの生み出し方なのです。
さまざまな研究者たちの連携が、未来につながるイノベーションへ――。
※当ページの内容は技術の詳細を述べたもので、商品に結びつくものではありません。